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楽屋裏話

  • ◆◆芸協浪漫7◆◆ ~社団法人落語芸術協会事務局長 田澤 祐一~

更新日2008年2月7日

前回は同僚のK野さんのことでした。
翌年(昭和61年)春に、K野さんは退職され。事務局は荻原事務局長と私の二人だけになってしまった。そこで、誰か女性事務を入れることになったが、すぐには見つからなかった。荻原さんから、「君の知り合いで誰かいないか?」と再三言われて、一人思い当たる女性がいた。前にこのページで王子のカミヤの話を書いたが、そこに出てきた神輿仲間の女性で、女子高の時からの知り合いであるS原さん通称「きんぎょ」だ。彼女は別に金魚に似ている訳ではなく、親父さんが昔お好み焼き屋「金魚」を経営していたので、そう呼ばれるようになった。知り合ったのは、私が高校時代に仲間数人と作った「神輿同好会」に仲間の知り合いとして入って来た時。この同好会は発足3年で30人以上の会員数を誇っていた。会員の平均年齢は20歳と若く、その多くは元○○高校応援団とか現××高校応援団、△△大学応援団等々、男臭い集団の中に何故か、元M野女子高校4人の内の一人 。この4人はすべて通称で呼んでいた。今回入局する事になる「きんぎょ」、19で結婚した「はんぎょ」、力強い感じの「よっちゃん」、彼女は魔法使いサリーに出てくるよっちゃんに似てるから。「がばちょ」は何故か判らないがそう呼んでいた。まだまだ女性もいたのだが「きんぎょ~よっちゃん」3人とは特別仲が良かった。荻原さんに紹介すると身元(その頃はお好み焼きをやめペットショプ経営)もはっきりしてるし、神輿を担ぐ様な気性は良い事だと即決。当然会長の許しも得て事務局員に採用になった。さて、これから3人で頑張ろうそんな矢先の5月の上旬。真打昇進披露(富丸師匠・伸乃介師匠)の挨拶でもらったカステラを3人で食べていると、突然荻原さんがせき込み苦しそうだ。しばらくうがいして、

荻原「死ぬかと思ったよ」
私「どうしたんです?」
荻原「カステラが喉で詰まったんだ」
カステラみたいな柔らかいものが詰まるのかな?その時は気道にでも入っちゃったのかな?くらいにしか思わなかった。その後は真打披露の楽屋に毎日のように通って忘れていた。忘れもしない5月20日(火)この日、荻原さんは検査がある半休を取っていた。夜は浅草の楽割を計算するので出る予定だった。午後2時過ぎ電話がきて細部に検査が必要なので2~3日入院するとのことだった。仕方なく一人で割りを作り、翌21日は新宿の顔付け、22日は夜上がり(集金)と忙しい。そして3日待ったが連絡が来ない。23日は7月の余一会の顔付け、24日は吉池落語会と新宿の割日、25日は新宿に割届け、26日はけいこ亭落語会受付、27日は若竹落語会、28日上がり、29日文化庁、30日新宿の割日、31日吉池落語会 。そして荻原さんのお上さんから電話でまだしばらく係るとの連絡があり、結局休む暇もない状態。これが何ヶ月続いただろうか。
季節も変わり夏になったころ、荻原さん自身から電話をいただいた。
荻原さん「迷惑をかけて済まない」
私「一度お見舞いにお伺いしたいのですが」
荻原さん「忙しいだろうから来なくていいよ、もう少しで退院するから」
私「そうですか、良かったですね」
荻原さん「協会は大丈夫かい?入院してて何も出来ないけど、退院したらすぐに事務局に行くからそれまで頼む、本当に迷惑かけて済まない。」
私「大丈夫です。お会い出来るのを楽しみに待っています」
結局これが荻原さんと交わした最後の言葉になった。
9月の半ばに入ったころ、いろいろな師匠から一度会った方がいいよと言われた。本当の病名は何ですかと聞いても、皆さん判らないけど良くないみたいだと言う。

そして9月30日におかみさんから電話が!
「今まで本当の事を言わないでごめんなさい。病名は食道癌で5月に検査した時にはもう手遅れの状態。抗ガン剤の投与を続けていた。」
「本当は、夏に一時退院させて思い残すことがないようにさせて上げたかった」
と涙声で説明してくれた。そして危篤なので会いに来てほしい!!すぐ米丸会長に連絡を取り一緒に病院へ。荻原さんは目を閉じ寝ていた。おかみさんが米丸会長と田澤さんが来てくれましたよと耳元で言うと、微かに頷いたように見えた。親族でない私は病院には残れないので、後ろ髪を引かれる思いで病院を後にした。帰り間際におかみさんから「実は昨晩同じ病院(この病院は荻原さんの息子さんが事務の仕事で務めている)の産婦人科で初孫が生まれて、会わす事が出来たんですよ」と聞いた。本当は初孫が出来て喜ばしい話しなのだが、何とも言えない運命を感じた。翌日、昭和61年10月1日に60歳でお亡くなりになった。荻原さんは本当に優しい尊敬できる方だった。1年半しかご一緒できなかったのがとても残念で、もっといろいろなことを教わりたかった。もう21年も前になってしまった。生まれたお孫さんも成人されたんだ。その時は言えなかったんですが、最後に会えて本当に良かったですね荻原さん。

さて、次号は芸協奮闘記です。

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